はじめて「ラーメン二郎」を食ったら吐いた

「二郎はラーメンではなく、二郎という食べ物である」

誰が言い出したかは知らないけれど、まことしやかに囁かれる噂である。普段の外食では頑なにラーメンを避け続ける僕とて、ラーメン帝国青森の血は隠し切れないのだ。数々のコピペを生み出し、ラーメンではないとまで言われる二郎を、いつか食してみたいと想い続け十数年。

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ついにやってきた、ラーメン二郎仙台店。

時刻はもうすぐ14時になるというのに、店の前には長蛇の行列。客層は僕のような男子学生がメインのようで、40くらいの玄人感漂うおっさんもちらほら。ただし、いかにもステロタイプなジロリアンらしい不健康な百貫デブの姿は見当たらない。

店員A「くぁwせdr大ft小yふじこlp」

店員がこちらに寄ってきて、何か話している。あまりの早口でよく聞き取れないけれど、大にするか小にするか聞いているらしい。ジロリアンな皆様は、ここで麺の硬さなんかも注文するらしいけれど、僕はシンプルにこう答える。

「小で。麺少なめでお願いします」

列は進み、前や後ろのジロリアン達が、「メンカタの方、どうぞー」「お一人様、どうぞー」の声で次々と店内に吸い込まれていく。やがて店の入口までやってくると、目の前の張り紙には「食券は先に購入してください」とひとこと。

やってしまった。僕、食券なんて一枚たりとも持ってない。何故なら並ぶ前に買わなかったからだ。列に並び始めた時点では、どうせラーメンを食うのだからと眼鏡を外していて、張り紙の文字が見えなかったからだ。

どうしよう。このままじゃ、僕の後ろに並んでいる無数のジロリアン、そして店内でワシワシと二郎を飲み込むジロリアン達に集団リンチされてしまう。逃げるか?いや、駄目だ。ここで逃げて出禁にでもなってしまったら、仙台市内で本物の二郎を食せなくなってしまうではないか。

店員「麺少なめの方、どうぞー」

「食券先に買ってなくてすみません」

意を決して、食券の販売機にありったけの100円玉、500円玉を投入し、ひとこと詫びを入れつつ食券を購入。無地のプラスチック製で、メニュー名も何も印刷されていない食券に不安を覚えたものの、何事も無かったかのように涼しい顔で食券を提示する。おそらくお釣りは回収できていない。

店員A「これ大の食券なので、100円お返しします」

「あ、どうもすみません」

店員A「ニンニク入れますか?」

「お願いします」

あれれ、おかしい。食券を買わずに並ぶという、二郎に対する冒涜のような行為に及んでしまったのにも関わらず、麺少なめでも尚山盛りに野菜が盛られた二郎と、脂でギトギトになった100円玉がカウンターに置かれているじゃないか。

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「いただきます」

まずは一口。野菜とブタの下に埋もれた、二郎独特の太い麺を口に運ぶ。うん、思いのほか美味い。あまりに化学的すぎる風味にリバースをかましてしまったらどうしようという僕の不安を嘲笑うかのような美味さ。醤油とは少し違う、脂でギトギトなのにあっさり系とも感じる味。これが俗に言うカネシの味なのか。

もう一口。今度はスープに浸された大量のもやしを喰らう。これもまた美味い。もやしそのものには味が全く付いていないので、少々もやし臭く感じてしまうところもあるけれど、スープに浸された部分に関しては間違いなく美味い。これもカネシ商事の二郎専用醤油が成せる技なのか。

もう一口。今度はブタを口に運ぶ。厚い。大きい。しかし箸で切れる。そして口の中で溶ける。脂臭さが脳の髄から手足の先に至るまで染み渡る。これも美味い。なんだなんだ、普通にラーメンとして美味いじゃないか。

もう一口。更にもう一口。まだまだもう一口。それでも減らずもう一口。量は多い、しかし麺少なめオーダーだけあって、食べ切れない量ではない。もう一口、まだもう一口、麺と野菜が消えるまでもう一口。美味さに浸っている時間はない、俗に言うロットを乱してはならない。次の次のロットが茹で上がるまでに、目の前の二郎を完食してしまわなければならない。

「ごちそうさまでした」

どんぶりをカウンターの上に戻し、ふきんで自分のスペースを拭き、ティッシュで口を拭いたら、店の入り口のゴミ箱にティッシュを捨て、汗と脂でギトギトになった顔でシャバの空気を吸う。

僕は二郎を完飲した。麺もブタも野菜も、スープに至るまで残さず完飲した。店員さんも優しかった。また食べに来よう。野菜も肉も大量に摂取できるし、実は二郎って健康食だったりするんじゃないのか?カロリーも高いから、一杯完飲すれば向こう一日は何も口にしなくて平気だろう。そうか、二郎はお財布にも優しいんだ。

その刹那、何か熱いものが胃から食道、食道から喉へと駆け上がってくるのを感じた。その場では辛うじて駆け上がる勢いを喉で止めたものの、一歩一歩前へ進むたびに、体の揺れに反応して、腹の中で何かがたぽんたぽんと揺れ、揺れと一緒に再び食道へ再突入してくる。

人間としての尊厳の危機を感じた僕は、目の前のファミマのトイレに駆け込み、本来ならケツを向けて座るはずの便器に口を向け、咀嚼されて原型を止めない二郎を思いっきりぶちまけた。

 

マスタさん、リバース

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ミンティアと黒烏龍茶を買った。口に残るニンニク臭さが鼻腔をくすぐるたびに、再び吐き気を催すので、ミンティアで中和できないだろうかと考えたのだ。黒烏龍茶は脂肪の吸収を抑えるため、そして脂分の入っていない、ノンオイルな飲み物で体を癒やすため。

この文章を書いている現在、二郎をリバースしてから既に32時間が経過した、2016年7月17日の夜の時点で、僕の口には今だ微かにニンニクの臭いが残っている。そのニンニク臭さが鼻腔をくすぐるたびに、僕はまた二郎を食したい衝動に駆られてしまう。

決めた。夏休み前にもう一度挑戦してみよう。

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